看護学生の頃に記録を書くのに悩むことがありました。「色々とまとめてるのものがあればっ!」と思っていたのでまとめました。
1、アルツハイマー型認知症とは
認知症とはなんらかの原因により認知機能が低下することで日常生活に支障がある状態になります。
認知症の中で最も多いのがアルツハイマー型認知症になります。
65歳未満に場合は「若年性」となるのだ
1).原因
脳の組織に老人斑や神経原線維変化が見られ、海馬から脳全体が萎縮することが原因と考えられています。
老人斑や神経原線維変化が相互に作用して神経細胞に障害されます。
この障害により神経細胞やシナプスが脱落して脳の神経細胞のつながりに支障がでます。
神経細胞のつながりに支障が出ると脳の働きが低下して萎縮すると考えられています。
アミロイドβ
脳内で作られるタンパク質で誰にでも存在しています。
通常は短期間で分解して排出されますがアミロイドβ同士がくっつくことで異常なアミロイドβとなり排出されなくなります。
異常なアミロイドβが脳内に蓄積して神経細胞にまとわりついて毒素を出します。
毒素により神経細胞が死滅して脱落します。
異常なアミロイドβが脳内に蓄積すると「老人斑」ができるのだ
タウ蛋白
タウ蛋白は中枢神経細胞に多く存在しているタンパク質です。
脳の神経ネットワークを構成する必要なタンパク質ですが、神経細胞に凝集すると神経細胞の働きが低下させます。
これにより神経細胞が死滅して脱落します。
タウ蛋白が神経細胞に凝集する原因として「可溶性が不溶性に変化して巨大な凝集を作る」「リン酸化の亢進」などですが詳しくは解明されていません。
タウ蛋白が神経細胞に凝集すると「神経原線維変化」が起こるのだ
2).危険因子
- 加齢
- 遺伝
- 心血管疾患
- 糖尿病
- 高血圧症
- 脂質異常症
- 不眠症
- 歯周病
- うつ病
- 喫煙
- 教育期間
- 頭部外傷
- ストレス
2、経過
1).前兆期
軽度認知障害「MCI:Mild Cognitive Impairment」のことです。
記憶力や注意力など、認知機能の低下はあるが日常生活に支障はないです。
物忘れが主たる症状だが、日常生活への影響はほとんどなく、認知症とは診断できない状態。
軽度認知障害は正常と認知症の中間ともいえる状態です。その定義は、下記の通りです。
1.年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する。
2.本人または家族による物忘れの訴えがある。
3.全般的な認知機能は正常範囲である。
4.日常生活動作は自立している。
5.認知症ではない。
すなわち、記憶力に障害があって物忘れの自覚があるが、記憶力の低下以外に明らかな認知機能の障害がみられず、日常生活への影響はないかあっても軽度のものである場合です。しかし、軽度認知障害の人は年間で10~15%が認知症に移行するとされており、認知症の前段階と考えられています。
厚生労働省 e ーヘルスネット
2).初期
認知機能が軽度低下している状態です。
主に記憶障害が起こります。
最近のことや部分的なことではなく、全体を忘れます。
そのため同じことを何度も聞いてきます。
約束した場所や時間といった一部分ではなく、約束そのものを忘れるのだ
また、判断力の低下や今までできたことができなくなると感じるために自信喪失、意欲の低下などがあります。
日常生活を送ることが少し難しく感じる時期で、仕事も少し難しく感じます。
長年続けている車の運転や家事などは覚えているためできます。
難しく感じながら日常生活を送ることができているため、周囲が気づかないことがあります。
3).中期
認知機能が中度低下している状態です。
記憶障害がひどくなり新しいことが覚えられなくなります。
そのため日常生活を送ることや仕事などが難しくなります。
良く言われるのが食事になります。
食事をしたのに「食事をしていない」と言い、中には周囲に迷惑をかけるような言動をすることがあります。
また、日時や場所、住所、電話番号、計算などもわからなくなるため、迷子や金銭トラブルなど起こすことがあります。
4).後期
認知機能が重度低下している状態です。
自発性や意欲が低下するため物事に関心がなくなります。
家族が家族であることがわからないなどの記憶障害があります。
コミュニケーションが難しくなるため、何度も聞き返すことがなくなります。
そのため記憶障害はあまり目立ちません。
日常生活は介助がなければできません。
ベッドで寝て過ごすことが多くなるため、ADLが低下して歩行障害や嚥下障害となりやすいです。
3、アルツハイマー型認知症によるリスク
1).混合型認知症
アルツハイマー型認知症と他の血管性やレビュー小体型、前頭側頭型などの認知症を併発した状態です。
2).ADL低下
意欲の低下により活動性が低下して歩行障害や嚥下障害などのリスクが高くなります。
最終的に寝たきりになる場合があります。
3).転倒
アルツハイマー型認知症は高齢者が多く内的要因や外的要因により転倒するリスクがあります。
転倒による外傷は寝たきりのきっかけになるため注意が必要です。
内的要因
加齢や疾患、薬物などにより身体になんらかの変化あるためリスクが高くなる要因のことです。
- 加齢
- 筋肉量減少
- 持続力低下
- 反応・反射速度低下
- 巧緻性低下
- 平衡感覚低下
- 姿勢保持困難
- 疾患
- 循環器系
- 神経系
- 筋骨格系
- 薬物
- 睡眠薬
- 抗精神病薬
- 降圧剤
- 強心薬
- 抗パーキンソン病薬
外的要因
履物やズボンなど身につけているものや床に置いてある荷物や段差など、転倒しやすい環境によりリスクが高くなる要因のことです。
- 衣類
- ズボン
- 履き物
- 環境
- 段差
- 滑りやすい
- 荷物
- コード類
- 照明不足
4、症状
アルツハイマー型認知症の特徴として記憶障害から始まり、徐々に色々な症状が出現します。
症状は大きく分けて中核症状と周辺症状「BPSD」があります。
まとめてあるのだ
進行している時期により出現しやすい症状はありますが、個別性があるため個人差が出ます。
個別性があるため症状は十人十色なのだ
1).初期
アルツハイマー型認知症の初期では主に次のような症状があります。
- 記憶障害
- 物を置き忘れる
- 片付けた場所を忘れる
- 見当識障害
- 日付や時間がわからない
- 失語
- 固有名詞を忘れる
- 実行機能障害
- 計画を立てて行動できない
- 被害妄想
- 盗害妄想
- 意欲低下
- 自発性の低下
記憶障害は比較的新しい記憶に障害がでます。
盗害妄想は他に片付けた場所を忘れて財布などの大切な物が見つからない場合「誰かに盗まれた」とつじつまを合わせるように被害妄想として出現することがあります。
2).中期
アルツハイマー型認知症の中期では主に次のような症状があります。
- 記憶障害
- 古い記憶
- 見当識障害
- 家の近所で迷子になる
- 季節に合わない衣類の選択
- 自宅の部屋の場所がわからない
- 自分がいる場所がわからない
- 自宅にいるのに家に帰りたいと発言
- 失語
- 話しの内容が理解できない
- 話しのつじつまが合わない
- 話したいことが言葉として上手く表現できない
- 時計を読めない
- 失効
- はさみが使えない
- 更衣ができない
- 失認
- 見たり聞いたりしている物の認識ができない
- 徘徊
- 家の近所で迷子になる
言語障害は流暢に話せるが言い間違いが多いことがあります。
徘徊は見当識障害がひどくなり出現することがあります。
3).後期
アルツハイマー型認知症の後期では主に次のような症状があります。
- 見当識障害
- 家族がわからない
- 不潔行動
- 弄便
- 失禁
- 異食
- ビニールを食べる
- 洗剤を飲む
寝たきりが多いです。
不潔行動や異食はADLが比較的保たれている方に見られます。
5、検査
- 改訂長谷川式簡易知能評価スケール「HDSーR」
- ミニメンタルステート検査「MMSE」
- 時計描写テスト「CDT」
- ABC認知症スケール「ABCーDS」
- CT
- MRI
- VSRAD
- 脳血流SPECT
6、治療
完全に治す治療法はまだありません。
進行速度を遅らせることや中核症状「BPSD」に対する治療をします。
- 薬物療法
- リハビリテーション療法
- 回想療法
- 音楽療法
- 芸術療法
- アニマルセラピー
7、看護ポイント
1).物忘れとの違い
物忘れ | 認知症 | |
記憶 | 一部 | 全体 |
自覚 | ある | ない |
日常生活 | 支障ない | 支障ある |
進行 | ゆっくり進行 | 進行 |
2).早期発見
アルツハイマー型認知症の治療は確立されていません。
しかし、進行を遅らせる治療法があるため早期発見することはとても重要なことです。
早期発見、早期治療をすることが本人や家族の負担を減らすことにつながります。
「少しおかしいな」と感じたら病院を受診するようにします。
3).危険因子の治療
危険因子を治療することはアルツハイマー型認知症の予防につながるため、危険因子を把握して治療をします。
4).コミュニケーション
記憶としてコミュニケーションをしたことは覚えていないかもしれませんが、感情は残りやすいです。
そのため、「責める」「怒る」などネガティブな言動は控えるようにします。
穏やかな口調でポジティブでわかりやすい言葉を使い話すようにします。
相手が感情的になって責めてくる時は距離を置いて刺激の少ない場所で1人にすると効果的です。
関わり方として次のような方法があります。
まとめてあるのだ
5).自立を促す
日常生活を送る上で、できることはやってもらいます。
トイレや洗面所などの場所はわかりやすいように案内や目印をつけると、自分で移動することができます。
料理や洗濯などはできる能力があればやってもらいます。
自立を促しますが、何ができて何ができないのかを知ることが大切です。
できることでも危険性を考えて「1人で大丈夫なこと」「見守ること」「介助が必要なこと」に分けて自立度を把握します。
注意として自立を促し過ぎると逆効果になるため、本人のペースや状態に合わせて無理のないようにサポートすることが大切です。
6).不安を取り除く
記憶障害や見当識障害などにより色々な不安が出現します。
不安は間違いの指摘や否定により強くなります。
特に幻覚や妄想などによる訴えは、否定してしまいそうになるため注意が必要です。
穏やかな声かけやその場で話を合わせるなど、安心感を与えるようにします。
幻覚や妄想の不安を取り除く方法は、幻覚妄想に対して何もないことを一緒に確認すると安心感を与えることができます。
一緒に確認できない内容は共感をして安心感を与えます。
7).強制はしない
アルツハイマー型認知症の方は自分が認知症であるという自覚はあまりありません。
そのため「拒薬」「介護拒否」などが多くあります。
この場合、無理に行うと被害妄想が出現してさらに拒否が強くなる可能性があるため無理に行いません。
タイミングを変えたりポジティブなことを伝えて根気よく関わります。
8).理由を知る
拒否をする理由を聞きます。
本人が困っていることを解決すると拒否がなくなる可能性があるため、一緒に解決をします。
9).安全対策
「床に荷物を置かない」「手すりの設置」「足元に照明」など工夫して転倒を予防します。
転倒以外に徘徊も危険であるため「玄関にセンサーを設置」「衣類に連絡を書く」「GPSの活用」などで対応します。
他にも異食など危険な行動をがある場合は、その行動が出現しても生命に危険がないように環境を整えます。
10).生活リズム
アルツハイマー型認知症の方は高齢であることが多く、加齢や見当識障害により昼夜逆転しやすい状態です。
昼夜逆転は夜間徘徊となるリスクがあるため、日が昇っている時は日光浴や散歩などを促します。
また、夜間は「照明の明るさ」「温度や湿度」「寝具」など眠りやすい環境を提供します。
11).栄養状態の把握
アルツハイマー型認知症は自発性や活動性の低下、不安、うつなどの出現により食事や水分を摂っていないことがあります。
栄養状態の悪化や脱水に注意する必要があります。
体重を測定したり飲水量を観察します。
12).自動車の運転
自動車を運転する危険性はとても強く、本人だけではなく他人の生命も脅かすため運転できないようにする必要があります。
しかし自動車はとても便利でポジティブな感情が残っているため、運転できない環境にすると怒る場合があります。
本人が納得できるように話を進めることが重要ですが、それでも上手くいかない時は友人や専門医など第三者の力を借ります。
13).活動
運動不足になりやすいため散歩やラジオ体操、ストレッチなどをして筋力を維持して転倒予防をします。
また、運動は脳の刺激になるため症状悪化の予防を期待できます。
運動以外でも頭や指を使うことをして過ごします。
「日記を書く」「パズル」「塗り絵」「折り紙」など興味のある物や好きな物をして過ごしてもらいます。
コミュニケーションも有効であるため声をかけたり、電話を活用して声を出す機会を増やす工夫が必要です。
14).社会資源の活用
アルツハイマー型認知症の方の介護はとても疲れます。
家族であるからこそ強く責められたり、拒否することがあるため、社会資源を利用して第三者の力を借ります。
介護者がひどく疲れている時はレスパイト入院させることも必要になります。
レスパイト入院は本人を入院させることで介護者の休息を図ることを目的とした入院なのだ
15).家族の受け入れ
介護が大変で退院できない理由の多くは家族の受け入れにあります。
受け入れが悪い理由は多くあります。
家族が受け入れたくない理由
- 過去に酷い目にあった
- 状態は落ち着いているけど前の状態に戻ったら怖い
- 入院などの機会により患者さんの居ない生活がとても過ごしやすい
- 兄弟姉妹であり面倒をみたくない
- 近所に知られるのが恥ずかしい
退院後の生活をどうしていくのか、本人と家族の希望を聞いて退院先を思案します。
家族が強い拒否を示す場合には、施設への退院となることが多いです。
8、看護計画
下記の項目から対象者を当てはめ、必要な項目を詳しく考えていきます。
1).看護目標
アルツハイマー型認知症の症状や状態は個別性が強く、看護目標も色々と考えることができます。
問題やストレングスに注目して達成可能な目標を患者さんと一緒に話して決めます。
- 環境の変化に慣れて落ち着いて入院生活が送れる
- ベッドからの転落や転倒をすることなく過ごすことができる
- 食事や水分摂取ができ身体状態を良好に保つことができる
- 治療や検査を拒否することなく受けることができる
- 不安により精神状態が左右されず、日常生活が送れる
- 精神状態の悪化により易怒性が出現する時は不穏時を内服することができる
- 病棟の活動やレクレーションなどに参加することができる
- 排泄をトイレですることができる
- 精神状態が悪化することなく穏やかに日常生活を送ることができる など
2).O-P
身体症状
- 体温
- 脈拍
- 血圧
- 呼吸
- 症状やその変化
- ADL
- 歩行状態
精神症状
- 発言内容
- 表情
- 病識の有無
- 暴言の有無
- 暴力の有無
- 中核症状の有無
- 周辺症状の有無
生理的状態
- 排尿
- 排便
生活因子の状態
- 食事摂取量
- 水分摂取量
- 補食の有無
- 喫煙の有無
- 睡眠状況
- 活動と休息のバランス
治療に関すること
- 治療方法の効果
- 診察や検査結果からの変化
- 治療や検査など患者「家族」の思い
- 薬剤による副作用
3).T-P
日常生活の援助
自分でできる方であれば日常生活の援助はあまり必要ありませんが「身体的理由」「精神的理由」「病識欠如」「意欲低下」などの理由でできない方は援助をしていきます。
- 洗面
- 口腔ケア
- 整容
- 食事
- 排泄
- 入浴
- 清拭
- 更衣
- 整理整頓
その他の援助
- 傾聴
- ストレスの発散方法
- 環境の調節
- 排便コントロール
- 排便習慣の確立
- 服薬状況の管理
- 金銭管理
- 私物管理
4).E-P
- 適性体重の維持
- 活動と休息のバランス
- 禁煙
- 規則正しい生活習慣
- 薬物療法の必要性
- 薬剤による副作用
- 退院後の生活
- 社会資源の活用
- 転倒
- 運動療法
5).ポイント
- 合併症の予防や早期発見できる観察
- 実践可能な立案
- 個別性な立案
- 生活習慣に合わせた指導内容
- 薬剤の副作用に合わせた指導内容
- 原因となる因子の排除に向けた計画内容
- 自立に向けた援助や指導内容
- 退院後の生活における社会資源の活用
家族の負担はとても大きいのだ