老年期の特徴ってなんとなくはわかります。詳しくと聞かれると困りますね。そこで、老年期の特徴をまとめました。
筆者が生きているうちは大きく変化はないと思いますが、新しいことを提唱されて、少しずつ変化していく可能性があります。
また、寿命や健康寿命が長くなってきたり、疾患や医療体制の状況も年々変化があるため、あと何十年後には老年期に対しての考え方も変わるかもしれません。
1、学者たち
老年期の特徴について提唱している学者は多くいます。
特に看護と関係が深い学者はエリクソン、ハヴィガーストだと思います。
- エリク・ホーンブルガー・エリクソン
- 心理社会的発達理論
- ロバート・ジェームズ・ハヴィガースト
- 人間の発達課題
他にもペックの心理社会的葛藤やレヴィンソンの発達課題、バルテスの生涯発達論などがありますが、ここでは省きます。
2、エリク・ホーンブルガー・エリクソン
アメリカ合衆国の発達心理学者で、アイデンティティの概念やエリクソンの心理社会的発達理論を提唱しました。
老年期の心理社会的発達理論は、年齢は65歳以上が対象で発達課題は統合と絶望で獲得できることは英知とされています。
さらに、エリクソン学派が発達理論を拡張して、80歳を超える高齢者の発達課題として、老年的超越という概念を提唱しています。
1).老年的超越
トレンスタムによれば、離脱現象の一種であり、通常の価値観から離れて、加齢に伴う社会的関係の縮小に合わせた価値観や行動特性を身につけるようになります。
3つの次元から説明されます。
- 宇宙次元
- 現在と過去の境界が消え去り子供時代が戻ってくる
- 先祖とのつながりや愛着が強く意識される
- 死への恐れが消え生と死に関する新たな理解が進む
- 人生の不思議が意識される
- さまざまな経験、特に自然の中での経験を楽しむ など
- 自己次元
- 自己の隠れた側面を発見(良い面と悪い面)
- 自己中心性が弱まる
- 身体を大切にしながらも、それにとらわれることがなくなる
- 利己主義から利他主義への転換が起こる
- 人生のさまざまな出来事が1つの全体につなぎ合わされることに気づき、静寂と孤独を求める など
- 関係性次元
- 表面的な関係性への興味が薄れて1人でいることを求める
- 自己と役割が意識されて、いくつかの役割を放棄したり、新たなより充実した役割を得る
- 責任を離れることにより成熟する
- 物的豊かさを軛と感じるようになり、禁欲に自由を感じる
- 表面的な理非曲直に興味を感じなくなり、物事の判断や助言を差し控える など
3、ロバート・ジェームズ・ハヴィガースト
アメリカの教育学者で、人間の発達課題を提唱しました。
1).発達課題
人生の各段階の時期に生じる課題のことで、人間が健全で幸福な発達を遂げるために各発達段階で達成しなければならない課題のことです。
その時期の課題を達成できれば、その人は幸福になり次の課題も容易に達成できるが達成できなければ、その人は不幸になり社会から承認されず、次の課題を成し遂げることが困難になるとされています。
- 老年期の発達課題
- 肉体的な強さと健康の衰退に適応すること
- 隠退と減少した収入に適応すること
- 配偶者の死に適応すること
- 自分と同年輩の老人達と明るい親密な関係を確立すること
- 肉体的生活を満足におくれるよう準備態勢を確立すること
4、老年期の特徴
人生の最終段階である老年期について、エリクソンによる心理社会的発達理論の発達課題は統合と絶望で、獲得できることは英知とされています。
統合は、これまでの人生でさまざまな経験が結び付いて「良い人生であった」と思える状態で、残りの人生に希望を見出せています。
絶望は、これまでの人生を否定的に捉え、統合とは反対の状態になり、残りの人生に希望を見出せていません。
発達課題を乗り越え英知を獲得し、最終段階の「老年的超越」を獲得できれば幸福であると考えることができます。
ハヴィガーストでは、老年期で健全で幸福な発達を遂げるためには、発達段階の課題を達成する必要があります。
発達課題の内容は身体的なことや精神的なこと、経済的なことなどがあり、老年期の特徴でもあるといえます。
それは、加齢による衰退で変化する身体的なこと、同年代や配偶者の死による精神的なこと、仕事を退職し減少する収入による経済的なこと、などさまざまです。
5、加齢による身体の変化
1).恒常性維持機能の低下
恒常性は外的環境が変化しても生体内部の環境を一定に維持しようとする機能のことで、生命の基礎活動になります。
この機能の低下に伴い、回復力、予備力、防衛力、適応力が低下し、脱水症や肺炎といった健康障害の原因になります。
恒常性機能が維持できないと死亡する場合があります。
- 大切なこと
- 水分補給
- 正しい衣類の選定
- 良い生活リズム「睡眠、活動、休息、食事、排泄」 など
2).形態面
神経系や筋肉、骨の変性により姿勢保持機能が低下し姿勢に変化が出現してきます。
特に円背、すり足歩行になりやすく身長の短縮もみられます。
他にも薄毛、白髪、メラニン色素の沈着、しわ、たるみ、乾燥、爪の肥厚などがあります。
- 大切なこと
- 整容維持
- 保湿
- 転倒注意 など
3).運動機能
加齢による運動機能の低下は、「飛ぶ」「跳ねる」といった瞬発力を必要とする動作に著しくみられ、複雑な動作ほど遅くなる傾向にあります。
筋肉量や骨量の減少は、基礎代謝や活動量の低下だけではなく、骨粗鬆症や変形性関節症などの疾患のリスクが高くなります。
また、平衡性や筋持久力、協応性、敏捷性の低下によりふらつきや老年性歩行「前傾姿勢、すり足歩行、歩幅縮小、上肢の振り縮小など」が出現します。
- 大切なこと
- 転倒予防
- 筋力維持
- 杖や歩行器などの補助具活用 など
4).感覚機能
視覚や聴覚、味覚、嗅覚、触覚の低下があり、さまざまなリスクが高くなります。
- 視覚低下
- 老視や老人性白内障のリスク
- 明暗順応が低下
- 聴覚低下
- 感音性難聴や老人性難聴のリスク
- 高音域の聴力低下
- 語音弁別能力低下
- 方向感覚弁別能力低下
- 味覚低下
- 閾値の上昇
- 甘味や塩味がわかりにくくなり濃い味付けを好む
- 嗅覚低下
- 閾値の上昇
- 腐った食品やガス、尿臭に気付かない
- 触覚低下
- 閾値の上昇
- 痛覚や温度覚の低下
- 外的刺激の反応低下
- 大切なこと
- コミュニケーション「大きな字、低めの声、正面を向いて話すなど」
5).生理機能
- 脳・神経系
- 特に大脳の萎縮が大きい
- 認知機能低下
- 記憶力低下
- 結晶性知能は低下せずに安定
- 言語能力
- 理解力
- 洞察力
- 批判能力
- 創造力
- 内省力
- 自制力
- 社会適応力
- コミュニケーション力 など
- 循環器系
- 赤血球減少
- 血管壁弾力の低下と内腔狭窄
- 脈圧開大
- 食後低血圧
- 起立性低血圧
- 不整脈
- 呼吸器系
- ガス交換機能低下
- 横隔膜変形
- 肋軟骨の石灰化
- 喉頭蓋反射低下
- 咳嗽反射低下
- 低酸素血症
- 誤嚥性肺炎
- 消化器系
- 消化液分泌減少
- 蠕動運動低下
- 解毒機能低下
- 薬剤有害作用のリスク増大
- 下痢
- 便秘
- 内分泌系
- 特に性ホルモンの低下
- 性欲減退
- 前立腺肥大症
- 更年期障害
- 腎・泌尿器系
- 70歳ごろで腎臓機能は50%以下に減少
- 膀胱の平滑筋収縮力低下
- 頻尿、夜間頻尿
- 脱水
- 残尿
- 免疫系
- 特にT細胞の減少
- 感染症のリスク増大
- 重症化
- 代謝系
- 基礎代謝低下
- 耐糖能低下
- コレステロールや中性脂肪の増加
- 糖尿病
- 動脈硬化症