認知症の方へのケアは受け入れてもらうことがとても難しいです。看護や介護の現場で必要な基本的な技術をまとめました。
1、カンフォータブルケアとは
認知症の方に対して関わる方法を10項目の基本的な技術としたものです。
- 常に笑顔で対応する
- 常に敬語を使う
- 相手と目線を合わせる
- 相手に優しく触れる
- 相手をほめる
- こちらから謝る態度をみせる
- 不快なことは素早く終わらせる
- 演じる要素をもつ
- 気持ちに余裕をもつ
- 相手に関心を向ける
心地よいと感じるコミュニケーションを提供することで、認知症の方の周辺症状を抑える効果が期待されています。
認知症の中核症状と周辺症状をまとめたのだ
2、常に笑顔で対応する
動物行動学者イレネウス・アイブル=アイベスフェルトは文化、風習などあらゆる状況が異なる環境でも、挨拶をするときに共通点があることを発見しました。
それは人間が挨拶をするとき微笑むことで、微笑むことは緊張を解いてお互いの攻撃性を弱めると結論付けています。
つまり笑顔は人の緊張を解く効果があり、相手を安心させることができます。
笑顔は基本なのだ
認知症の症状の1つに記憶障害があります。
記憶障害は最近の出来事を覚えることが困難、記憶していたことを忘れるなどがあり記憶障害により大きな不安を抱えています。
また、周りの人全て知らないと感じるのは孤独感が強くなります。
同じような経験をほとんどの人はしているのではないでしょうか。
新しい学校や新しい職場など環境が変わると周囲に同じ仲間がいるのに知っている人がいなくて孤独感を感じるような経験…
コミュニケーションをするときに笑顔がなくぶっきらぼうな相手だと嫌な感じを特に受けます。
認知症の方も同じで、対応する職員に笑顔なく無愛想だと嫌な感じを受けて警戒心を抱きます。
認知症の方はその人のことを覚えていないかもしれませんが嫌な思いをした感情は覚えています。
警戒心を与えるようなコミュニケーションでは敵意を持たれてしまうため「ケアをされたくない」「暴言」「暴力」などのリスクが高くなります。
警戒心を与えないためには笑顔で緊張を和らげて安心感を与えることが大切になります。
3、常に敬語を使う
初対面の人にフランクな言葉で話されて嫌な思いをしたことはありませんか。
状況や相手にもよりますが初対面でフランクに話すとほとんどの人は「失礼な人」「常識がない人」「なれなれしい人」など不快な印象を与えることが多いです。
また、フランクなコミュニケーションは「家族」「友人」などの関係性の場合は成り立ちますが、そうでない場合は言葉の意味に「命令」と感じる言葉もあります。
例えば「ちょっとこっちに来て」「おーい」などと声を掛けて手招きすると「来い」と命令されていると思う人もいます。
命令は不快な印象を与えるため認知症の方にはしてはいけない言葉になります。
ビジネスでは敬語の研修があるぐらい重要視されるスキルで、社会人として基本的なスキルです。
それは敬語は自分の思いを柔らかく伝える効果があり、相手に不快な思いをさせないようにするためのコミュニケーション技術だからです。
ビジネスではお互いが気持ちよく仕事をするために相手が「年下」「部下」などの関係性でも敬語を使います。
プライベートでも自分が「客」相手が「店員」などの関係性あっても敬語を使う方が良いとされています。
敬語を使わない場合はお互いだけでなく周囲にも不快な思いをさせてしまうためです。
不快は認知症の方の嫌な感情として記憶されてしまうため、認知症の方とコミュニケーションをするときは敬語を使い不快な印象を与えないようにする必要があります。
敬語には「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」と大きく分けて3種類ありますが、慣れていない人が正しく使うことは難しいです。
また、敬語を使いすぎても逆効果となる場合があるため、話す言葉を全て敬語で話す必要はありません。
敬語の使いすぎは壁を感じるのだ
重要なことは相手を敬う気持ちであり、その思いが相手に伝われば不快な印象を与えることは少なくなると思います。
4、相手と目線を合わせる
「目は口ほどにものを言う」ということわざがあるように、見る動作は非言語的コミュニケーションの1つになります。
自分は何気なく見ているだけですが相手に思ってもいないメッセージを送っていることがあります。
相手より目線が高く見下ろしていると「あなたより格上」と伝わり、逆に目線が低く見上げていると「あなたより格下」などのメッセージになります。
認知症の方にとって「対等」「親密」「誠実」などのメッセージを与えることが大切で、そのために目線を合わせる必要があります。
対等、親密、誠実の印象を与えるのだ
ただ目の高さを合わせるだけではこれらのメッセージは伝わらないため「正面から」「近寄って」目線を合わせる必要があります。
「正面から」は誠実、「近寄って」は親密などのメッセージが伝わります。
5、相手に優しく触れる
触れる動作は非言語的コミュニケーションの1つになります。
ケアをするときは相手に触れることが必要となりますが、触れるときに相手を掴むと「制限」「拘束」などのイメージを与えてしまいます。
「制限」「拘束」などはほとんどの人は不快な思いをすると思います。
不快な印象を与えないように「掴まない」「触る順番は鈍感な部位」「触る面積は広く」「動作はゆっくり」などをすることで相手に「優しい」イメージを与えることができます。
ケア以外のときでも優しいイメージを与えるために優しく触れることは認知症の方とのコミュニケーションでは必要になります。
しかし過剰に触れることは不快な印象を与えてしまうため、その人の表情や言動などからときには触れないことも必要になります。
馴れ馴れしいのは逆効果なのだ
6、相手をほめる
認知症の方にしてはいけないことは責めることです。
責められたら誰でも嫌な思いになり、特に理不尽に責められたときはとても嫌な思いになります。
これは誰でも経験があるのではないでしょうか。
認知症の方がとる行動はその人にとって何か理由があるはずです。
意味のない行動や迷惑な行動であっても不安を解消するための行動なのかもしれません。
理解力や判断力の低下でその行動が迷惑な行動と認識していない可能性もあります。
迷惑な行動だからといって責めると、認知症の方にとって理不尽に責められていると感じるのではないでしょうか。
迷惑な行動や危険な行動でなければ、ある程度許容した方が認知症の方にとって良いとされています。
不快な印象を与える「責める」ことより嬉しく思う「褒める」ことが重要なのです。
褒められたら嬉しいのだ
具体的に何を褒めて良いか難しく感じますが、些細なことで良いと思います。
「ご飯を少し食べれた」「少し歩けた」など、できたことを褒めます。
排便をして衣類を汚してしまっても、衣類を汚してしまったことに焦点を置くのではなく、便が出たことに焦点を置いて「便がでて嬉しく思います」など褒めることが大切です。
7、こちらから謝る態度をみせる
心理学者レオン・フェスティンガーは「自分の考え方や行動などにより心の中で矛盾が生じると不快に思い、それを解消しようとする心理が働く」と認知的不協和理論を提唱しています。
よくある解消方法として自分の考え方を正当化することです。
例えば、自分がドライブ中に前の車を煽って追突事故をした場合、煽り運転をして追突した自分が悪くなりますが「相手がゆっくり走っているのが悪い」「相手が下手な運転だから悪い」と訴える人がいます。
自分の運転が上手だから「事故を起こさない」と考えていたら「事故を起こした」と行動により矛盾が生じて考え方を正当化しています。
理解力や判断力がある人は、第三者の介入で自分の非を認める人が多くいますが認知症の方の場合は難しくなります。
それは理解力や判断力などが低下しているためであり、正当化できないと「焦燥感」「易怒性」が出現して暴力にまで発展する場合があります。
こちらに非がなく認知症の方がトラブルを起こしても「申し訳ありませんでした」と相手の考え方を否定しないことで、認知的不協和による不快な思いを与えることなく介入することができます。
謝りながら介入するのだ
8、不快なことは素早く終わらせる
人は常になんらかの行動をしています。
「常に」と思うかもしれませんが「食事」「排泄」「休息」「睡眠」「趣味」「移動」「考え事」「ボーッとする」など自己のペースで過ごしていることが常になんらかの行動をしている状態になります。
人はなんらかの行動をしているときに邪魔をされると不快な思いをします。
例えば、カラオケで気持ちよく歌っているのに場を盛り上げるために「誰かがタンバリンでリズムをとる」「誰かが一緒に歌ってくる」などがあります。
相手は場を盛り上げるために良かれと思って行動していますが、その行動は「余計なお世話」と不快に感じる人はいると思います。
他にも「余計なお世話」と不快に感じる場面は多くあると思います。
経験したことあるのだ
認知症の方はセルフケア能力が低下していることが多く、ご飯を食べているとき、排泄するとき、洗面をするときなど衣類や環境を汚すことは多くみられます。
セルフケアの援助をするときは自己のペースで過ごしている邪魔になるため不快な印象を与えてしまいます。
そのセルフケアの援助が認知症の方にとって必要なことでも「余計なお世話」となります。
そのためセルフケアの援助など、認知症の方にとって不快なことは複数の職員で役割をあらかじめ決めて手早く援助する必要があります。
また、びっくりさせたり刺激することは不快な印象を与えるため注意が必要になります。
9、演じる要素をもつ
職場や友人の前で本当の自分を抑えて、好印象になるように演じている経験はないですか。
人間関係を良好に築くために人は自然と演じています。
例えば、好きな異性の前では「可愛く」「カッコいい」「優しい」「強い」などの印象を与えるために演じています。
認知症の方との関係性はとても重要で、施設の職員と全て良い関係と思ってもらえたら認知症の方は安心すると思います。
名前や顔などを覚えていなくても、感情としての記憶は残るため「あの服を着ている人はみんな良い人だ」などを思ってもらえるような関わりを続けます。
みんな俳優、女優なのだ
10、気持ちに余裕をもつ
仕事が多忙になると気持ちに余裕がなくなり周りの状況が見えなくなることがあります。
また、仕事が忙しいあまり認知症の方への対応が雑になり不快な印象を与えることもあります。
看護師は危険を予見する「結果予見義務」や、危険を回避する「結果回避義務」を守らなくてはいけません。
気持ちに余裕がないと危険に対する予見や回避の思考力が低下して事故につながる危険性があります。
仕事をチームで協力して、それぞれの職員が気持ちに余裕ができるようにします。
他にも業務改善をして業務の簡素化に取り組むことで仕事に余裕ができます。
組織全体で働く環境を良くする必要があるため仕事に余裕ができ、気持ちに余裕ができる職場環境を目指します。
業務改善は仕事を減らすためにするのだ
11、相手に関心を向ける
コミュニケーションをするときに相手が「何かをしながら」「あいづちがない」などでつまらないと感じた経験をしたことはありませんか。
これは相手の関心が自分に向いていないことが原因で、コミュニケーションをしていても1人で話をしているような思いになります。
この思いは嫌な思いであり不快の印象を与えてしまいます。
認知症の方とコミュニケーションをするときは「身体を相手の方に向ける」「あいづちをする」などちゃんと聞いていますよ、とわかるように傾聴をして快の印象を与えるようにします。
コミュニケーションをしても認知症の方の反応が薄いときは、言葉を工夫するだけで「自分はあなたに関心を向けている」と伝えることができます。
例えば「昔の話を聞きたい」と伝える場合
①「昔の話を聞きたいです」
②「昔の話を聞きいて◯◯さんをもっと知りたいです」
どちらも相手に関心を向けていますが①より②の方が関心を強く向けていると感じると思います。
「相手の名前を呼ぶ」「興味がある」など自分があなたに関心を持っていることを言葉にします。
素直に興味があることを伝えたら良いのだ
12、まとめ
認知症の方とのコミュニケーションで重要なのはポジティブな「快」の印象を与えることを多くして、ネガティブな「不快」の印象を少なくすることです。
感情の記憶は人の奥底に記憶されるため、ポジティブな印象を与え続けることで安心を与えることができます。
周辺症状は不安や焦燥感などから出現することが多く、これらの症状は人との関わりから出現することが多くあります。
ポジティブな印象から安心感を与えて穏やかになることで周辺症状が軽減すると考えられています。
ポジティブな声かけが大切なのだ
ユマニチュードをまとめてあるのだ